国保悪用の外国人急増

2017年1月6日付けで、産経新聞でとりあげられた記事です。

「留学と偽り入国、高額医療費逃れ 厚労省、制度・運用見直し検討」と伝えられています。
お時間のある方は、以下のリンクをご覧ください。

http://www.sankei.com/affairs/news/170106/afr1701060006-n2.html

この記事の中で、行政書士がこの悪用に積極的に荷担しているかのように、書かれているので、本当にそんなことが可能かというところも含めて、この問題の難しさをとりあげてみました。

記事の要点

医療滞在というビザ


医療先進国である日本には、日本でしかできない治療というのがあります。そのため、日本で治療を受けたい富裕層の外国人はたくさんいます。医療というのは観光と同じようインバウンド事業という側面をもっており、そのために政府も「医療滞在」という在留資格を設けています。

高額医療の頭打ち制度


日本でしかできない治療というのは、先進治療であり、非常に高額です。日本人の場合、皆保険制度がありますので、保険適用がされる治療であれば、収入によって、一定額で頭打ちです。しかし、これを全額まともに支払うと年間数千万というケースもあります。

外国人にも適用される皆保険制度


外国人であっても、日本で生活する限り、この皆保険制度の対象となります。外国人も日本人同様に納税をしているわけですから当然ともいえますし、中には永住者で何十年も高額な税金を納めている人もいるわけで、その方たちが保険制度の恩恵をうけることにそれほど違和感はないと思います。

悪用の手口


社会保険への加入


中長期滞在者、具体的には、3ヶ月を超えるビザを保有する外国人(医療滞在は該当しません)は、健康保険への加入が義務付けられます。そこで、安易にとれそうな中長期滞在のビザを取得し社会保険に加入し、日本人と同様の高額医療の頭打ちを狙うわけです。

ビザとの関係


具体的には「留学」もしくは、「経営・管理」というビザを取得します。「留学」の場合、行政書士の出番はあまりないので「経営・管理」に絞って書きます。

「経営・管理」のビザにもいくつか種類があるのですが、いわゆる「投資」を伴うビザの取得条件は、500万の資本金、もしくは、日本人か永住など身分系のビザを保有する外国人を2人雇用すること。独立した事務所を構えることです。

上記の条件で会社を設立し、ビザを取得して、会社から給料をとると厚生年金への加入が義務づけられます。法令通り厚生年金に加入する、もしくは適切ではありませんが、国保に加入するなどの手続で日本人と同様の頭打ち制度を利用できるわけです。

行政書士の積極的関与は可能か?


今回は「国内にいる行政書士がブローカーとして指南する」と書かれていますので、海外のエージェントと直接取引のある行政書士事務所が介入しているという書き方です。つまり、最初から架空の会社設立をして、高額医療の頭打ち制度を利用しようとすることを問題視しているのですが、実務上可能なのでしょうか。

「経営・管理」のビザを取得する要件自体は前述のとおりですが、一方でこのビザは審査に時間のかかるビザです。ビザ免除国でない国の方の場合、1ヶ月や、2ヶ月ですんなりでるケースは滅多にありません。さらに申請前に法人設立する方法が一般的ですから更に時間がかかるわけです。もちろんおりない場合もあります。

日本でしかできない治療をするのに、一日でもはやく治療を開始したいはずです。このビザがでるのを待っていては手遅れになるでしょう。もちろんでないこともあります。つまり条文上では可能ですが、実務上は、そういう手があるよというアドバイスはできても、それほどタイミングよくビザはおりないのです。

そうすると、短期滞在で治療をすすめながら、同時に会社設立、タイミングよくビザが下りれば、短期からの変更申請をする。短期からの変更申請は、原則認められませんが、人道的理由、例えば病気で飛行機にのれないなどの事情があれば認められます。

ちなみにアジアの国で90日のビザ免除国はシンガポールと韓国だけです。私も医療滞在ビザを扱いますが、この二つの国のケースは経験がありません。彼らは自国でも、それなりの治療を受けられますし、日本以外の国を選択することも可能です。

全体としてのスキームをたてて、クライアントと打ち合わせを積んで初めて可能になるわけです。場合によっては、医療機関の協力も必要になります。ダメで元々という前提ですすめることも必要でしょう。海外と強いパイプがあり、計画的に業務を進めていないと不可能です。もしかすると、そういう規模で関わっている行政書士事務所があるのかもしれません。

医療ビザ取得者から法人設立を求められるケース


私の場合、海外エージェントの取引はないので、医療滞在の案件を扱うのは、病院関係者からの紹介だったり、私の英語ページをみて問合せてくるケースしかありません。

具体的には、医療滞在を目的とした短期滞在で入国している方からの問合せです。手術自体は3ヶ月の短期滞在で終わるけれど、リハビリも日本でしたいので、6ヶ月の医療滞在に変更したいというケースです。

このケースで悩ましいのは、日本にきたらビジネスチャンスがあることがわかったので、会社を作りたいという申し出です。実際にビジネスをすると言っている以上、法的にも、道義的にもこの種の依頼は断れません。結果として、同じ事態を招きます。


参照:行政書士法
(依頼に応ずる義務)

第十一条  行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない。

結局はビザ制度の問題

ビジネスビザのハードルが低い日本


日本の「経営・管理」ビザは、世界的に見ても格安です。私の事務所で取り扱ったオーストラリアの方など、そのハードルの低さにびっくりしていました。例えば、オーストラリアの場合、会社設立だけではビザはおりません。会社が一定規模に育つまで、現地の人を雇用して、自分は短期ビザで行き来をするくらいしか方法がありません。

グレイゾーン


この記事の作成者が指摘しているのは、500万で架空の会社を設立するという悪質なケースではないかと思います。ところが、1億から2億の投資をして会社を設立し、会社が不動産を購入し、不動産の賃貸収入をえながら、社会保険制度を利用するというようなケースもあるわけです。

本来なら数千万の治療費を払える人たちです。こういう人たちにこそ、医療滞在でしっかりお金を置いていって欲しいのです。しかし、こういう人たちには、不動産投資をするだけで、日本の医療制度を利用し、本来数千万の出費を払わずにすませる手段が残されています。

医療会計現場での問題


逆に、お金のない外国人が保険に入っていないと、医療現場は大変です。アメリカのように、払えなければ診ないよというような習慣が日本人にはありません。目の前で苦しんでいる人を、保険がないなら診ませんよとはいえないわけです。むしろ、保険に入っていてくれないと困ります。

こうやって考えると、社会保険制度の見直しだけでは、この問題は解決できないことがわかると思います。どこまでどのようにコントロールするのか、システム設計には大変な知恵が必要です。

在留資格の申請をしている行政書士をしている立場からすると、「経営・管理」のビザ発給に雇用要件など、事業実態を確認できる更に厳しい審査基準を設ける、入国後1年以上経過しないと社会保険の加入は認めないなど、むしろビザ要件の見直しが必要ではないかと思います。

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